その眼が見据える晩年
こまっしゃくれた鳴き声など
とうの昔に聴き飽きた
ずるずる四の足音
歩む方向すら知らぬままに
ふらふら千鳥足 小瑠璃が笑う
道はか細い平均台
右も左も宵の光
どちらに落ちても奈落行き
辿り着いた濁世で
手招きをする曖昧宿
あんよが上手は床上手
虚構の嵩かさ 百貫の屑くず
「また始まったよ」
繰り返す東雲しののめの空 そこかしこから雛型の産声
荒れ果てた轍わだちを通るとも知らずに
収まりつかぬ不相応の翼
くちばしから垂れる墨汁は 降り出す雨に滲み広がる
俄にわか作りの鳥小屋じゃ雨宿りもできやしない
泥水すすり いざ
一匁いちもんめの分銅に脅かされ 命の時間が迫る
急げ渡れ 遠浅の海 遠雷響く彼方まで
墨で塗り潰したその道に
差し込むは藍白あいじろの亀裂
拍手かしわでに飽きもせずに群れを成すは池の鯉
「見ちゃいけない!」
無い親指隠して通夜を飛び越えろ
障子破りお迎え
錆びた掛け金 夢の跡
早うこっちにいらっしゃいな
四畳半の鳥かご
謳うは有象無象の糞ふん
値札も反古ほごして香具師は薄笑い
底打ちの誉ほまれを
羽繕いしながら鶴首かくしゅして
千切って毟って丸裸
尼あまの匙を食い尽くし
そらあっちへこっちへ糧を探し
見上げりゃ屠殺場とさつば 後の祭り
眩い暈かさ 水仙の園
「おやどこへ行くの?」
朝露に濡れる山苔に足を滑らせ見失う陽の向き
不遜の羽ばたきはいつかの落日
もろい橋に楔くさびは打たれ 元より無い退路は断たれた
硝子を噛み砕き 小石を飲み込み
報われぬ天秤に飛び乗っては弾かれる
さえずる事も無く
一匁いちもんめの御神みかみを崇め続け 祈りの時間を憂う
急げ集え 八百長の舞台 鐘よ響け
有明ありあけの空は蜃気楼の楽園
救いの器で水浴び
墓守はかもりは公平な不公平に辟易へきえき
「■■■■■」
赦しを乞う御明かし消えた
成れぬ 弧を描く燕に
成れぬ けたたましい烏に
成れぬ 愛歌う雲雀に
成れぬ 雛鳥にさえも
一匁いちもんめの分銅に押し潰され 命の時間を看取る
嬲り殺す 鳥目の世界 足掻き叫べど
菊頂きくいただきの羽根を揺らす事も出来ず
雀の涙の傾きを吹聴ふいちょうしてはまた灰を散らして
押し寄せる鶸色ひわいろの漣さざなみに文句も言えずに
止まぬ猟銃 白黒つけろ 腐る果実齧り付き
忌々しい屑鳥くずどりを撃て
命の通わぬ窓に群れ
振り払った蚕がまた呻きをあげる前に
掌で蠢うごめくその卵と共に死に晒せ